どのような基本方針ですか?
1.不妊治療の基本方針は、下記を踏まえて検討されます
- 男性の年齢
- 男性の精液検査(精子数、精子の運動率)、ホルモン値など
- 女性の年齢
- 女性の抗ミュラー管ホルモン(卵巣予備能の評価)、ホルモン値(エストロゲン、プロゲステロン等の卵巣機能の評価)、排卵障害の有無、卵管通過性など。子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮内膜症などの婦人科疾患。

医学的な検討の結果、一般不妊治療を勧めず、体外受精や顕微授精といった生殖補助医療:
Assisted Reproductive Technology(以下ART)を医師が推奨する場合もあります。
ARTには、妊娠率の向上、身体的な負担や治療費といったメリットとデメリットがあり、あなたとパートナーの考えを踏まえて選択する場合もあります。
不妊症の原因は男性因子が50%近くを占め(図1)、男性不妊の原因は下記の3通りに大別されます(図2)。精液検査(表1)は、主に男性の妊孕力(妊娠しやすさ)と、男性不妊症を判断する目的で行われます。

文献:Comhaire,F.H.を基に作成

引用:子ども家庭庁(2025)
表1 精液検査基準値
| 検査項目 下限基準値 |
| 精液量 1.4ml以上 |
| 精子濃度 1600万/ml以上 |
| 総精子数 3900万/射精以上 |
| 前進運動率 30%以上 |
| 総運動率 42%以上 |
| 正常精子形態率 4%以上 |
2.無精子症または重症乏精子症について
無精子症は、射出精液中に精子が見当たらない状態のことです(飯島,2019)。
精路通過障害である閉塞性と造精機能障害である非閉塞性に大別されます(図3)。

引用:子ども家庭庁(2005)
3.TESE(精巣内精子採取術)+ICSI(顕微授精)が第一選択の場合があります
全ての方が、一般不妊治療を繰り返し実施することで妊娠に結び付くわけではありません。下記の場合は、TESE+ICSIが望ましい場合があります。
TESEの選択は、下記の内容を踏まえて検討されます(湯村ら,2022)。
- 精子数
- FSH:下垂体前葉から分泌される卵胞刺激ホルモン(精巣から精子を作り出す命令を出します)
- 精巣サイズ
- 遺伝学的検査
- 無精子症の原因(閉塞性か?非閉塞性か?)
医学的な検討の結果、Conventional TESEまたはMicro-TESE(詳細あり)が医師から提案されます。
精子が回収できた場合に、女性パートナーとのICSIによる不妊治療に進むことができます。TESE+ICSIには、妊娠率の向上、身体的・経済的な負担といったメリットとデメリットがあり、あなたとパートナーの考えを踏まえて選択する場合もあります。

4.男性不妊症治療のおおまかな流れ(図4)

文献:岡田ら(2022)を基に作成
無精子症は精液中に精子が認められない状態であり、精液検査で精子濃度や精子数などを確認することで診断されます。無精子症と診断される割合は100人に1人程度とされています。
妊娠の成立を目指すには、原因に対する治療(ホルモン補充、精路再建、TESEなど)と、ICSI(顕微授精)が必要となります。
5.TESE(精巣内精子採取術)は2種類あります
ConventionalTESE:陰嚢皮膚を1~2㎝切開することにより、精巣組織を採取し、採取組織中から精子を回収します。
Micro–TESE(microdissection TESE):陰嚢皮膚を3~5㎝切開し、ここから精巣を脱出させ(精索はつながったまま)、白膜を切開して精巣組織を露出させます。手術用顕微鏡下に観察し、精子形成のある確率が高い精細管組織を採取する方法です。
6.ICSI(顕微授精)とは
体外受精の方法の一つで、採取した卵子の中に顕微鏡を見ながら一つの精子を直接注入して受精させる方法です。
通常の体外受精の方法では受精が難しい場合に実施される方法で、男性不妊治療と組み合わせて実施されることが多いです。


ARTの基礎知識医歯薬出版株式会社. p90.を基に作成
7.精路再建術とは?
閉塞性無精子症の方に対して行われる手術で、選択肢の一つです。
手術によって精子の通り道を再建(精路再建術)することができます。
女性側に問題がなければ、自然妊娠や人工授精による妊娠が可能となります。主に保険診療です。
表2 閉塞性無精子症の原因
| 閉塞部位 原因疾患 |
| 精管 精管結紮術(パイプカット) 小児期鼠経ヘルニア手術 先天性両側精管欠損 |
| 精巣上体管 精巣上体炎の既往 Young症候群 |
| 射精管 ミュラー管嚢胞、ウォルフ管嚢胞 性感染症 |

表3治療別の特徴
| 治療法 | ||
| 精路再建 | TESE | |
| 長所 | 自然妊娠が可能女性への侵襲が少ない | 短期間で妊娠が得られる 精路再建不成功でも妊娠が可能 |
| 短所 | 閉塞原因によっては精子出現率・妊娠率が低い 自然妊娠までの期間がTESEに比べて長い | 女性への侵襲(採卵・移植)が大きい |
不妊期間・女性パートナーの年齢、女性側の不妊原因、これまでの治療経緯を考慮して、精路再建かTESEかの方法が検討されます。
精路再建術には、次の3通りの方法があります。
精路の閉塞している原因、女性パートナーの不妊原因を考慮して、精管-精管吻合術、精管-精巣上体吻合術、射精管解放術のどちらが良いか検討されます。
表4精路再建術の概要
| 精管-精管吻合術 | 精管-精巣上体 吻合術 | 射精管開放術 | |
| 概要 | 手術用顕微鏡下で精管と精管を吻合する | 手術用顕微鏡下で精管と精巣上体を吻合する | 内視鏡を用いた経尿道的射精管開放術を行う |
| 対象 | 精管結紮術後 小児期鼠経ヘルニア手術後 | 精巣上体炎の既往 先天性精巣上体閉塞 | 前立腺嚢胞 |
| 精管の開通率 | 68.9% | 41.5% | データなし (精液量と精液所見の改善あり) |
| パートナーの妊娠率 | 21.2% | 20.7% |